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鳥山明さんの凄さ

以前、角川で漫画家のアシスタントをしてた時は、漫画家さんが数人で共同生活をしてました。
なので各作家のアシスタントを含めると結構な人数が居たんですが、そこで色々と漫画の話をしてると「集英社が生んだ3人の天才」として必ず名前が挙がってたのが、『ドラゴンボール』の鳥山明さん、『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦さん、『こち亀』の秋本治さんでした。

ヤングジャンプでアシやらせてもらってた時も、「天才漫画家」の話になるとやっぱり真っ先に鳥山明さんの名前が挙がってましたね。


昨日、職場で地震の話をしてたら何故か鳥山明さんの話しになったんですが、自分が鳥山明さんのどこがそんなに凄いのかを説明したら、説明を受けた人にとってはかなり興味深かったらしいんですよね。
まぁ、漫画を描かない人にはわかりにくい部分だから結構新鮮な話なのかな?と思ったので、漫画を描かない人にも分かる様にちょっと説明してみる事に。


まず、漫画家ってあくまで「作家」であって「画家」では無いんです。
だから絵は下手でも良い。
漫画を読ませる為の記号として説得力が有れば良い。それに足して人を惹き付けるセンスが有れば更に良し。

「やっぱり漫画は話だよね」って言う人も居ますが、話が面白くなくても良いんです。
一番重要なのが「ネーム」の上手さ。鳥山さんはそれがずば抜けてるんですよねぇ。


※ 以下長いので折りたたんでおきます

ネームっていうのは漫画の下書きの前に描く簡単な設計図みたいな物なんです。
ごく簡単にコマ割りして、そこにマッチ棒みたいな適当絵の人物と台詞を描く。
漫画の画面の構図設計みたいな物かな。
これが漫画のほとんど全てを決めるくらい大事なんです。


漫画の画面って実は凄く計算されて描かれています。
吹き出し(台詞)や擬音の位置や大きさ、人物の位置や角度、背景の場所や色(密度)、コマの大きさや形。
それら全ては人間の目の動きや、構図によって見る物に与える心理的影響を考えて設計します。


画面設計について、ごく簡単な例を幾つか、、、。

自分がヤングジャンプでアシスタントをやってた頃、「画面は端を〆るのが基本」って教えられました。
どういう意味かって言うと、画面の下・四隅・左右の端にベタ(黒)や濃い色のスクリーントーン(灰色の模様です)、線の密度の高いオブジェクトを配置する事。
こうすると画面に安定感が出るんですよね。逆に画面の中央に濃い色を置いて端を薄くすると不安定な感じになります。
この画面構成の基本は、そのまま読者に与える心理的影響に繋がります。
読者に不安感を与える時は、画面が不安定な感じの構図にしたりとかね。


人物が武器を構えてる所を横から描いたとします。
その時、画面の中央から左に向かって構えてると「攻めてる」様に見えるけど、画面の中央から右に向かって構えてると「守ってる」様に見えるんですよ。想像してみて下さい。

これを利用して、同じ画面の中で魔人ブウと悟空が対面するシーンを描くなら、、、。
魔人ブウを画面左の手前から右に向かって構えさせ、悟空を画面右の奥から左に向かって構えさせます。
遠近感によって大きく見えるブウと小さく見える悟空、そして位置によって守ってる(受けて立つ)様に見えるブウと攻める(挑戦する)様に見える悟空。
この2つの効果により、画面の構図だけで魔人ブウが「強そう」っていう印象を読者に与えるんです。


物凄く簡単な例なんですが、こういう感じで画面の設計だけで読者に色々な感情を与える事が可能なんです。
だから、物凄く極端な言い方をすると「話が面白い漫画」なんて物は無くて、「話が面白いと錯覚させる構成力」(読み手の感情を操作し画面の中に引き込む力)がずば抜けて上手い漫画に対して、大半の読者は「話が面白い」と感じるんです。

ドラゴンボールなんて、ストーリーを箇条書きにして文字で説明したら何も面白く無いですよね?
なのにあれだけ人気が有ったのは、上記の画面設計が異常な程に上手かった為に読者は物語の中に引き込まれ、キャラ達の言動にハラハラドキドキさせられてたんです。


そして鳥山さんが恐ろしいのは、上記の様な色々な「画面構成による効果」を物凄く手抜きして描いてるのが分かるとこ(笑)。

並みの漫画家さんが10の力で描いて得る効果が7~8だとすると、鳥山さんは2~3の力を出した程度で10以上の効果を得てしまう。
画面を見ると「凄い手抜きだなぁ、、」と感じるんだけど、でも完璧なんですよねぇ。
極端に簡単な例えで言うと、並みの漫画家さんが画面に奥行きと安定感を与える為に10時間かけてビルを描いたとしたら、鳥山さんは画面に15秒で石ころ3個描いて配置しただけで同様の効果を得てしまう感じ。
ドラゴンボールとか読むと、上手すぎて腹立って来ますもん(笑)。


更に、鳥山さんが天才だと言われる所以は、絵も有り得ないくらい上手い事(笑)。
ここで言う「上手い」とは、絵画やイラストの様な上手さでは無くて「漫画絵として記号化された」絵の完成度の高さ。
鳥山さんの絵はディフォルメされた漫画絵(記号)なのに、そのままフィギュア等に3D化できますからね。
ウソなのにウソが無い。
漫画絵としての上手さなら、たぶん日本で一番なんじゃないかと思います。


以上、そんな感じで鳥山明さんは別格で凄いって言われてました。
まぁあくまで自分や、自分が接した事のある漫画家さんや編集さんの中での話しなので、人によっては違う意見も当然あると思いますが。

個人的にはバガボンドを描き出してからの井上雄彦さんも異常なくらい上手いなぁ、、と思います。
比較的最近の漫画家さんだと、オノ・ナツメさんも凄い。


2 Comments

CEOやぼー  

すごく説得力のある理由でした。

そうかだからDBの同人誌なんかを見ても
面白くないわけか。


お仕事がんばってくまさい

2011/03/25 (Fri) 20:05 | EDIT | REPLY |   

秋(管理人)  

おひさしぶりですー。

そうですね、ドラゴンボールの絵の模写の上手い人は大勢いるけど、その絵でオリジナル程に面白い話を描けるかっていうと不可能なんですよね。
生前の手塚治さんが「彼はちょっと上手すぎる」ってコメントしたのが全てを物語ってる気がします。凄すぎます。

2011/03/28 (Mon) 19:05 | EDIT | REPLY |   

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Category: 漫画・小説