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『ハート・ロッカー』を観た感想

監督 キャスリン・ビグロー
出演 ジェレミー・レナー / アンソニー・マッキー


2010年公開アメリカ映画。
アカデミー賞では6部門を受賞し、製作と監督を務めたキャスリン・ビグローは、この作品で女性としては初の監督賞を受賞。



舞台は2004年のイラク。
アメリカ陸軍ブラボー中隊の爆発物処理班では戦死者を出してしまい、小隊長として新たにジェームズ軍曹(ジェレミー・レナー)を迎える事になる。
これまでに800個以上の爆弾を処理して来たというジェームズは、通常なら遠隔ロボットを使って対処する様な任務まで接近して自分で処理してしまう。
そんな彼の無謀な行動はやがて小隊の結束力に亀裂を生じさせる事になり、、、、。



一見すると、世界の警察気取りアメリカ様お得意の、エゴ炸裂プロパガンダ映画。
タカ派だと言われる事の多いリドリー・スコット監督の『ブラックホーク・ダウン』と同様に、作中のイラク人は不気味で何を考えているか分からない存在として描かれ、まるでエイリアンか何かの様。

「分かり易い描写でアメリカ批判をした『アバター』がアカデミーを取れず、こんな映画に作品賞を与えるアカデミーも馬鹿なんじゃないの?アメリカ様の狂った正義感を正当化した最悪な政治的映画。」

、、って感じの意見を凄く多く目にしたんだけど、それは違うと思うんですよね。


※以下、若干ネタバレっぽい感想も含んでいるので折りたたんでおきます


オープニングで流れるテロップ「戦争は麻薬だ」がテーマの全てだと思う。


タイトルの『ハート・ロッカー』とは『棺桶』という意味らしいのだけど、その棺桶に片足を突っ込んだまま『戦争』という麻薬に麻痺してしまっているある兵士の狂気の日々を淡々と追った映画。


主人公ジェームズ(ジェレミー・レナー)は最初、まるで死に急いでいるかの様な無鉄砲な男として描かれる。
そしてそんな彼をまるで英雄であるかの様に称える上司。

圧倒的な戦力差の前にテロ攻撃をするしか無かったイラク側は、街中の様々な場所だけでなく人間にまで爆弾をしかける。
乾いた空気の中、無表情な現地人に見つめられながら爆弾を処理するジェームス。
彼は防護服を脱ぎ捨て「死ぬときは気持ちよく行きたい」と語りながら大量の爆弾の処理に向かい、時には仲間の身を危険にさらしてまで「死の危険」へと足を踏み入れていく。

そして次第に明らかになっていくジェームスの本質。
些細なミスや一瞬の油断で「確実な死」が訪れる、文字通りの「死と隣り合わせ」の任務の中、ジェームスを支えているのは愛国心や正義感では無く、愛する家族への想いですら無かった。

彼を危険な場所へと駆り立てていたのは、「死の危険」を乗り越えた所で得られる高揚感と満足感。
「死に急いでる」のでは無く、死の恐怖を乗り越えた場所にある「生きている実感」を得る事が最大の喜びになってしまっていたんでしょう。

自宅に戻ったジェームスが戦地での危険な任務を語っても妻にはまるで相手にされず、幸せであるはずの家庭の日常が退屈で重苦しい世界かの様に描写される。

そんな彼が、幼い自分の子に「人は大人になると楽しいものが少しずつ無くなっていく」「今はもうひとつしか楽しめる物が無い」と語り、また戦場へと戻っていく。


家庭に戻った彼は、スーパーに大量にあったシリアル(お菓子)から適当に好きな物を選んだ。
同様に人生にも沢山の選択肢が有るにも関わらず、彼は再び「戦場での日々」を選び、イラクでの危険な爆弾処理の日々へと戻っていく。
彼にとってはもはや「リアル」は戦場にしかなく、そこから始まった負の螺旋から抜け出す事が出来ずにいる「狂った」普通の兵士。


これが、「戦争は麻薬だ」なんでしょうね。


メジャー作品の皮を被りながらもインディペンデント作品の魂を持つ、素晴らしい『反戦映画』だと思う。

戦争映画で「国」を描かず徹底して「個人」描いてる点や、戦争を正面から美化も否定もせずに空虚感を描いている点で『ジャーヘッド』(2005)に似てる気がしますね。

自分の中では戦争映画の傑作といえばキューブリックの『フルメタルジャケット』(1987)とマイケル・チミノの『ディア・ハンター』(1978)の2本なんだけど、この『ハート・ロッカー』もそれらに匹敵する良い映画だと思いました。


余談。
この作品を見たあと、色々な場所で感想を読んだんですが、、、。
「アカデミーは『アバター』みたいなもっとも多くの人が見た娯楽作品に賞を与えず、こんな退屈な映画に賞を与える。頭の固い年寄りはこういう地味な映画に賞を与える事で芸術気取りしたいだけでしょう」みたいな異見を沢山見て驚きました。

まぁ、映画の感想なんて個人の主観に過ぎないから否定する気もないんだけど、、、、、自分としては『アバター』が『ハート・ロッカー』に勝ってるのってVFXだけじゃん?って思うんですけどね(笑)。

更に言えば、アカデミーに何を期待してるの?って気も。
アカデミーは「その年で一番優れた作品」に贈られる物では無く、しょせんは「ハリウッド」っていう村社会の中でのお祭りにしか過ぎないんだし。



それにしても、キャスリン・ビグローって男臭い演出をする女性監督ですよね。
彼女が初めてメジャー作品で単独監督を務めた『ニア・ダーク』(1987)はいまだに自分の中でヴァンパイア映画のベスト3に入る傑作なんですが、この作品でも下らない扇情的な演出は皆無に淡々とヴァンパイアの哀愁を描いてて、ランス・ヘンリクセン演じるヴァンパイアの最後の姿には痺れました。
キアヌ・リーブスとパトリック・スウェイジが共演した『ハートブルー』(1991)も良かったし、今後も楽しみな監督の一人です。
元旦那のジェームス・キャメロンは、どんどんアレな監督になって行ってる気がして残念ですが、、、。

主演のジェレミー・レナーは『28週後』での勇敢な兵士役が印象深かったんだけど、この作品で好演していますよね。今後が楽しみな俳優の一人。
序盤に印象深い役を演じたガイ・ピアーズもいい役者なのに、いまいちブレイクしないのが勿体無い。
映画オタク的に笑ったのは、デヴィット・モースの登場。
あんたまたそういう役か!って感じでした(笑)。

技術兵を演じたブライアン・ジェラティは『ジャーヘッド』にも出演してたらしいんだけど、印象に無いんですよねぇ。
同作品で主演だったジェイク・ギレンホールは順調に人気俳優への道を歩んでいますが、『ジャーヘッド』が全く評価されてないのが残念。結構良い反戦映画なんだけどなぁ、


余談が長くなりましたが、『ハート・ロッカー』は渋い映画が好きな人にはかなりおススメな作品。

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Category: 映画